えとらんぜ

えとらんぜVOL.1『恋するメカニズム』
えとらんぜ
  良く夢を見る。
あんまり面白いので一時期、日記にして記録していたが、ハマり過ぎると現実と混同して、しまいにゃ狂っちゃうらしいぞと友人に脅かされたので怖くなってやめた話は、前にこの欄で書いた。
 あれから数ヶ月たった、今年の夏。夢の中に現れたのは、お笑いコンビのココリコの田中(敬称略)。
 夢の中の彼はタキシードを着ており、敵から私を庇護している。その後、完璧な立ち振る舞いで私をエスコートしてくれ、私の持っていた炊飯器に感動してくれる。ものすごく優しい。なんて気分の良いことよ、と思っていたら目が覚めた。
「……田中。ステキだ」
 よく有名人が夢に出てくると、しばらくの間その人を好きになってしまうというけど、そういう次元ではないような気はしていた。平生、彼には全く興味がなくて、それどころか失礼ながら、少し不気味な人物だなあとすら思っていた人物である。何より、低血圧の私が起き抜けからニヤニヤしている。おかしい。
 それからというもの、彼がテレビの画面に映れば、それを正座してじーっと見入ってはため息。更にはレギュラー番組を調べ、その時間が近づくといそいそしている。異常だ。ある時はホームページを眺め、なぜか日々化粧は濃くなってゆく。食欲もなくなった。それでも、まだ冷静な自分というのもちゃんと生きていて、時折自己分析などをしているのだが、ちょっとでも気を抜くと、
「んふふふ」
気持ち悪い。
「それは恋ね」と言ったのは友人だった。
「そうか。恋か。」では済まされない。ニヤニヤしてはハッと我に返り、を繰り返す。
「目を覚ませ。相手は田中だ。田中……ステキだ」
 仕事にならない。
 それから二週間、彼は毎日のように夢に登場してくるのだったが、ある日突然、田中熱はすっかり冷めた。なんのことはない。夢の中で冷たくされたのである。あほか。我ながら、ひとり上手も大概にしろと言いたい。
 ところで私はこの一件で、恋に堕ちるメカニズムというのは、案外単純に出来ているのではないかと考えた。「何らかの条件」が揃えば、極端な話、相手が誰であれ、人は恋に堕ちそうだ。
 平生、何の興味も抱いていない相手に強烈に惹かれてしまうのは、このメカニズムの働きが影響したに違いない。
 例えば、有名な恋のつり橋理論。揺れているつり橋の上の男女が見つめ合うと恋に堕ちるというやつ。あれは確か、つり橋の揺れに胸がドキドキしたのを、恋してドキドキしていると脳が勘違いするって話だったか。非日常の中で恋は生まれやすいという。
 さて、問題はその「何らかの条件」である。「タキシード」を着た人に会うのは稀にあったとしても、そこで「敵に襲われる」確率は低い。「優しい人」ってだけでは恋には堕ちない。
「……炊飯器か?」
 そんなばかな。勇気を出して持ち歩いたとして、それに感動する男なんて、仮にいたとしても願い下げだ。
 冗談はさておいて。おそらく、その時の私の精神状態や、関心事項なんかが関係しているんだろうけど、悔しいかな今となっては思い出せない。
 それにしても、人が恋すると綺麗になるというのは、気分が良くなって、化粧のノリもよくなって、身なりに気を使うようになるんだから当然だ。それが、夢の中の相手ってところが情けないんだけど、ほっといていただくッ。
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