えとらんぜ

えとらんぜVOL.7『オバケの季節が来る前に』

えとらんぜ 深夜、友人と電話でしゃべっていると、突然彼女が言った。  「ねえ、そばに誰かいる?」

 

 「いないよッ」  「そう。なんか子供の声が聞こえたような気がして」

 

 わざとである。  私は基本的にゆうれいは信じていない。でもおかしなもので、しんとした部屋で、しかも夜中に電話口でこう言われると一瞬ひやっとする。彼女は高校からの旧い友人で、私のこうしたところを熟知しているので、たまにこういった悪趣味なことを言ったりするのだ。しかし、これが仕事先との事務的なやりとりの最中だったらどうか。おそらく私は電話を切った後、誰もいないこの部屋で、ひとり平静を装いながら、見たくもないお笑い番組を見たりするだろう。

 

 重ねて言うが、私はゆうれいは存在しないだろうと思っている。見たことがないから、いるとは断言出来ない。もちろんいないともいえないが。そして、いられても困る。夜な夜な断わりもなく現れて、何がしたいのかさっぱり分からない。  「こういうワケで出て来たんですが、どうでしょうここはひとつ、恨み言など聞いてもらえませんかね」

 

 とでも言えば、聞いてやるにやぶさかでない。ようするに筋が通っていないところがいやなのだ。また、ちゃんと玄関チャイムを鳴らすとか、「あの~すいません」と一声かけてくれるなら怖くない。いるはずのない状況で突然いたりされたらオバケでなくても怖い。だから私は、「ご都合主義的に」信じないんである。  さて、学生時代は必ずと言っていいほど、クラスに一人は自称霊感の強い女がいるものだが、私のクラスにもやはりいた。廊下の隅や音楽室に女のゆうれいが出たと言う。またかと思った友人と私は廊下へ出て、その女生徒の指し示した辺りで、

 

 「ここか?うりゃ~っ」  と言いながら暴れた。

 

それが修学旅行前だったため、旅行中その霊感少女は、   「何があってもしらないからね」

 

 怖がられなかったのが悔しかったのだろう、勝ち誇ったようにそう言っていたが、結局何もなかった。あったといえば、始終彼女に「あッ今鏡に」とか「変な声聞こえなかった?」と言ってつきまとわれたくらいだ。人間の方がよっぽど怖い。  いつだったか、部屋で逆立ちしたら、目の前にぼんやりと白いものが浮遊しているのが見えて、怖気をふるったことがある。

 

 「ついに見てしまった」  一瞬そう思ったが、普通の姿勢で見えないのは変だと思い、覚悟を決めてもう一度やってみた。やっぱり見える。白くぼんやりとしたものが、こちらを見ているような気がする。その後、何度やってもそいつが見えるので、これは目の方に問題があると気づいて鏡を見ると、下まつ毛に綿ボコリがぶら下がっていた。『幽霊の正体みたり枯れ尾花』とはよく出来た川柳だ。 

 

 ところで、私の従姉妹が長年住んでいるアパートの部屋には、出るらしい。  「アキちゃん。今朝は大勢きたの。ドアから入ってきて窓から出てったの~」

 

 「…鍵かけて寝なね」  こんなやりとりが何年も続く中、彼女はお祓いもせず、引っ越す意志もなくただ怖がっているだけなので、こちらとしてはお手上げだ。

 

 そんな彼女も最近引っ越したんで、安心していたのだが、そうはいかなかった。  「夕べ寝てたら、若い男が布団の横に立って『待たせたね』って言いながらズボンを脱ぐの~」

 

 夢だろ。いろんな意味で「夢」だろそれはッ。


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