えとらんぜ

えとらんぜVOL.8『恥かき余話』

えとらんぜ 今朝。  「だからそのハシゴどけてよッ!」

 

 と叫んでいた。  ボンヤリと夢から覚めかけていたから、叫んじゃいけないということは分かってたんだけど、どうしても叫ばずにはいられないこの衝動、『起き抜けの寝言』は大変きまり悪い。その場には自分しかいないのに、どうにも恥ずかしいもんだから、寝ているフリをひとりしばらく続けた。

 

 さて、知り合いに一人、強烈に寝惚ける女性がいる。私の友人は、寝ていたはずの彼女にいきなり  「猫ってまぶたあんの」

 

 と大声で尋ねられたそうだ。友人が、訝しく思いながらも、「あると思うよ」と答えてあげたところ、彼女は「ふーん」と一言。後で本人に聞いたらそんな会話の記憶はないと言ったという。  その彼女がある日、起き上がったかと思うと、突然毛布を持ち上げ、それを目の前の壁に掛ける仕草を何度も繰り返したらしい。家族が尋ねる。

 

 「何してんの?」  すると彼女は憮然と答える。

 

 「宿題だから」  吹出す家族の様子で、やっと寝惚けていたことに気づくわけだが、彼女はそのまま、まだ寝惚けているフリを続け、ベッドに戻り、恥ずかしさに耐えながら数十分をやり過ごす。そして改めて起き上がり、先の奇行を家族に指摘されても、今度は憶えていないフリを決め込んだのだった。

 

 この恥ずかしい感じっていうのは、コレその直前まで真剣だったりするからだ。だから寝惚けている時に限らず、それは不意にやってくる。  うちのベランダの正面には民家があって、時々居間で交わされている会話が聞こえてくることがある。ある日聞こえてきたのは、その家の思春期の息子が、母親に反抗している様子だった。おばあちゃんは、庭で草むしりをしている。突然息子は大きな声で、

 

 「だからッオレは生まれて来たくて、この家に生まれて来たんだよッ!」  一瞬しんとした後で、おばあちゃんのつぶやく声が。

 

 「んじゃ、いいんじゃねぇか」  続けて、家族がどっと笑う声がした直後、本人の足音と思われる、ドスンドスンという階段を上る音が聞こえてきた。

 

 (あ~怒ったフリして今サイコーに恥ずかしいんだろうなー)  と思うと、他人事なのでとっても愉快だ。

 

 以前、中野駅のホームで、いやにスカした態度で煙草を吸っている男がいるなぁと思って観察していたら、見事にズボンのファスナーが開いていた。教えてあげようかどうしようか迷っていたら、他にも見ている人はいるもので、中年のおばさんがニコニコしながら、つつっと彼に近寄り、  「チャックチャックふふ」

 

 と教えてあげていた。失態に気づいた男は、やにわに煙草を足元に投げ捨て、舌打ちをすると(そんな突然不良になんなくてもいいのに)、いやにのんびりした歩調でその場から遠ざかっていった。まるで、  「ワザとだよッ」

 

 と開き直っているようだった。  (わ~これは相当恥ずかしいに違いないなー)

 

 と思うと、他人事なのでやっぱり愉快だ。  こんなふうだから、バチが当たったりする。

 

 ある日、仲のいい友人の住んでいる地域が大洪水の被害にあっているというので、慌てて電話をかけた。  数秒後、受話器の向こうの友人の大爆笑で目が覚め、我に返る。

 

 「ねえねえ、どこが洪水だって?ギャハハハハ」  …不覚だった。 


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